おっさんのスーサイド 5

風邪の女やというのは知ってんねん。分かってんねん。でもな、・・・あかんねん。めちゃめちゃギュッとしたい感じの子やねん。あかん、ちんぽ立ってきた。

なんでやねん!なんでちょっと感想述べたくらいでちんぽ立つねん!おっさんのくせに!

スポーツ器具店・ケルちゃんスポーツで硝子は、できたてのエピソードをアルバイトの遠藤道男・エンドウ ミチオ21歳に嬉しそうに報告している。店の出入り口のガラス扉が開いて、同じくアルバイトの中川美世・ナカガワ ミヨ22歳が、

店長、行くよ!

と大声で硝子を呼び、ケルちゃんスポーツと両側面に青いロゴの入った白いワゴン車の運転席に景気良く乗り込んだ。

ほんなら、留守頼むで。

道男に告げて硝子もワゴン車の、助手席に乗った。

いってらっしゃーい!

道男が店の外に出て手を振り、ワゴン車は出発した。この店は東京の中野区にあるのだが、行き先は長野県松本市のスポーツジムである。ちょっとした旅だ。そこにバーベルのバーを二十本届ける。ベルはこの日、すぐ後を追って別のアルバイトの男の子が、レンタカーのワゴン車を借りて運ぶ手はずだ。車中道中、運転する美世は自分の好きな音楽をガンガンかけ、ふんふん歌いながら、たまに硝子に話しかけた。

店長、二日酔いですか?わりに機嫌良さそうですけど。昨日はいい酒だったんですか?

美世が半笑いでそう話しかけると硝子は、

うふふ。ミヨちゃんも聞いてくれるか。いい酒はいい酒やったんやけどもな、その後が!もう飲めんで倒れてもたんやけどな、その後がこれ良かったんや。あんな、・・・ミヨちゃんは恋してるか?

恋か・・。たまにしますけどね。あんま頻繁にはしませんっすわ。

なんやねん、それ。うーん、でもまぁ、そうか。・・いや、君まだ若いやろ!なんでそんなんなん?

いや、なんでって言われても。そうだからそうだとしか、言えませんよ。

ふーん、そうか。俺はなぁ・・、恋しちゃってさー!聞いて!俺恋しちゃってさー!

気持ちわる!ちょっと店長!わたし運転してんだから!肩ゆらすな、こら!

すまんすまん。いや、どうゆうふうに伝えたらええんやろ。このおっさんの恋心はどうゆうふうに伝えたら、人に理解してもらえんねやろか。

気持ち悪いなー。伝えてもらわなくて結構ですよ。パーキング寄りますよ。

あ、道男から電話や。・・はいはい、店長ですけど。えー!定男がベル配達できません!?ノロウイルスのもっとひどいのんに罹ってもうたやとー!?あほかー!!こっちゃラブウイルスに罹っとんねんぞー!!くそー!分かった。電話してみるわ。留守頼むな。はいはい。ほんなら。はーい。
・・・あほか!あいつ!

硝子はもう一人のアルバイト、壁定男・カベ サダオ26歳に電話をかけた。

・・・・・はい。カベサダです。ただいま留守にしております。発信音は鳴りませんので、そのまま電話をお切りください。毎度ありがとうございます。

硝子は電話を切り、店の道男にかけ直した。

はい。ケルちゃんスポーツでございます。

・・道男か。店長です。悪い!道男、お前今からベル持って松本来てくれ!店はしゃーない、臨時休業て書いた紙貼って閉めてくれ。ワゴンはレンタカー屋の出目のおっちゃんが乗って店まで来てくれるさけ。すまんけど、それ乗って松本来てくれ!

マジすか?あー、分かりました。その代わり何かおごってくださいよ。

あーあーなんでも奢ったるがな。焼肉でもビー玉でも。すまんが頼んだで!

はいはい。

ランチュウラサービスエリア、という看板が現れ、硝子と美世はそこに寄って昼飯を食べることにした。


おっさんのスーサイド 4

硝子が目を開けたら、目の前に若い女の顔があった。女の顔は、細い目をびっくりしたように開いた後、ぶれて、上に飛んだ。
硝子は上体を起こした。朝だ。目の下に現れたのは、足の短いテーブルの台で、目をやった台の先には綺麗に剥かれたみかんがひとつ在り、その上に目をあげると、さっきの若い女の顔が在って、笑っていた。美人であった。
硝子は、ぼうっとしたまま、その笑っている女の顔にしばらく見入ってしまった。あんまり美しかったからである。女は笑ったまま、

具合はどうですか?何か、飲み物、飲みますか?

と言って、女の後ろにあった大きな冷蔵庫を開けようと立ち上がった。背のひどく小さい女だった。

・・・すみません。いただきます。

と硝子は、自分が風邪の家に一晩、世話になったことを了解して言った。女には、膝から下の足が無かった。ピッタリした黒い短パンを穿いていて、太ももがセクシーだった。硝子はその太ももに見入った。女が、

オレンジジュースと、トマトジュースと、ウーロン茶とアミノサプリと六甲のおいしい水がありますけど、何がいいですか?

と開けた冷蔵庫の光の中で、振り返りながら硝子に聞いた。硝子は慌てて、

グァバ茶で。

と言ったら、女はまた笑いながら、

グァバ茶はありません。

と言った。続けて女のすぐ隣に座っていた小学一、二年生ぐらいの男の子も笑いながら言った。

何それ、どんなお茶?まずそうな名前。ゲロ茶みたい。


硝子は昨日土手で倒れ、車に乗って助けに来た風邪に拾われて、今は風邪の家、外観はプレハブのような、居間と炊事場と玄関が一緒くたになった部屋がひとつと、寝室がひとつあるだけだが、一軒家の、家庭のぬくもりがあるような家に世話になっていた。硝子は礼を言ってから二人に名前を聞いた。女は、シリという名前で33歳。案の定硝子は、お尻やん、つるりん、ペンペン!やな。とオヤジギャグを言って笑った。二人はこんなオヤジギャグ、笑えへんわなと硝子は思ったのだが、二人とも笑っていた。男の子供は、チコという名前で6歳。ははは!ちんこやんか。と言って硝子は男の子に眉間を殴られた。

シリは、おかゆさん食べますか?と硝子に聞いた。硝子はまた、シリの顔に見入ってしまいながら、・・・うん。と言ってしまい、しまった!と思ってから、はい食べます。と言い直した。
シリは、さっと義足を付けて、すっと台所に立った。
梅干といい香りのする小さい葉の乗ったお粥と、上品な出来映えの玉子焼きと、見たこともない種類の小さな焼き魚と、わかめが浮いてるだけの味噌汁が硝子の前に用意された。硝子は、ちょっと気味が悪いな、と思いながらも食ったらおいしくて、あっという間に食べてしまった。気付いたらチコ君は学校に行って、いなくなっており、シリはテレビを見ていた。

風邪は、もう仕事に行ったんですか?

と硝子が聞いたら、シリは、

いいえ、吹太さんは朝ごはんを食べにレニーブルスホテルのバイキングに行ってます。毎朝行くんです。色んなお料理があるから、楽しいみたい。私のは、あんまり食べてくれないんです。

と言って、また笑った。硝子は、酔いの残りの勢いもあるし、このちょっと奇妙な美しい女を抱きしめたい、と思ったがその直後に、やめとこう、と思ってから言った。

シリさん、どうもありがとう。風邪の奴によろしくゆうといて。僕、硝子蹴之いいます。風邪から聞いてるわな。ごめん。僕スポーツ器具の店やっててね、あぁ、それも風邪から聞いてるか。今日はね、スポーツジムにバーベル20っこ、配達しますねん。知ってる?バーベル。そうそう、がー持ち上げるそれ。ありがとね。ほな、またね。おしりっ、つるりーん!はは、ギャグ。おもろい?良かった。ほんならね。お世話になりました。

玄関の外で、駅までの行き方をシリに教えられた硝子は、あかん、と思った。
あかん、恋してもた。と思った。


捨て鉢日記

12月14日 29歳になる。数人の友人達から、おめでとうメールが連続で届き、超酔っ払っていた時、ひとりで、だったから涙が超出ちゃった。
埼玉県大宮の市民会館で、落語の舞台雑用、バラシのアルバイト。公演最中、舞台袖で楽しむ。客は高校生達とその先生、親達。よう笑う子達ばかり。

12月15日 東京ビッグサイトで万華鏡の作り方をお客さんに教えるアルバイト。お客さんは、小学生や中学生やお婆ちゃんやおばちゃんや3、4歳の小さい子供やそのママや会社員のおっちゃんやお爺ちゃんや若い女性。疲れたけど楽しかった。

12月16日 昨日と同じく万華鏡作り。お客さんで来た4人組の中学生の女の子達が、作った万華鏡を互いに覗き込み合いながら、キモイ、を連発し合っていたのがおもしろかった。今時のヤングは悪意の無いキモイを言うんだなぁ、と思った。

12月17日 夜、渋谷のクロウルというライブハウスに行き、桜の花満開の下、というバンドのライブを観る。

12月18日 親父の誕生日だ、とどっかで思い出す。

12月19日 最近、部屋のベランダに変な小鳥が来る。濃い紫色のやつで、別に餌をあげたりとか何をしたわけでもないのに、突然来るようになった。友人にそのことを話したら、そら死神だよ、と言って笑っていた。

12月20日 神奈川県川崎の会館で、中国雑技の舞台雑用、バラシのアルバイト。かわいい中国人の女の子に胸キュン。

12月21日 一日中、中野の図書館にいた。しゃべくり漫才を最初にはじめたのは、エンタツ・アチャコだということが分かった。
夜、中野にある音楽練習スタジオでハチノスの稽古。一時間だけやって、その後その近所の居酒屋へ皆で行き、少し呑む。

12月22日 中華丼を食ったり、鳩が公園の水たまりの水を飲んでいるのを見たり、昼寝をしようとしたら眠れなくなってオナニーをしたら余計眠れなくなったり、福田和也という大好きな作家の本を読んだり、爆笑問題という大好きな芸人の本を読んだり、寝返りを打ったりした。
夜中、東京都品川のホテルの宴会場でディナーショーのステージ作りのアルバイト。

12月23日 ベランダに例の小鳥がまた来た。死神ですか?と聞いたら、違います。小鳥です。と言った。

12月24日 中野通りを歩いていたら、サンタが倒れていた。大丈夫ですか?サンタ?、と聞いたら、違います。ヨンタです。と言った。

青たん赤たん 14

どこ連れてくねん!あんたほんまええ加減にせえよ!

タクシーの中、小夜子は怒鳴った。怒鳴られた照子はそんなんお構いなしよってな顔で、

どこて。決めてへんよ。ただサヨちゃん捕まえたらそれでええんよ。行き先なんかどこでもええ。別れてから・・・、あれから一言もしゃべってへんやろ。気持ち悪いねん。黄昏にお互い言いたい事告げて、ほんで黄昏から相手の言ったこと告げられて。面と向かって話しときたいだけや。場所なんかどこでもええ。ただ、タクシーん中は嫌や。どっか止まってる場所行こ。

運転手がうっとうしそうに言った。

はよう決めてくださいよ。ほんまやったら乗車拒否やで。ねぇちゃんら、漫才師やろ。知ってるわ、スポーツ新聞によう載ってるから。芸能人は華やかか知らんけど、ちった人の迷惑も考えた方がえんとちゃいますか。ねぇ?

おっさん。止めろ。今すぐ脇寄れ。

照子はそう言ってタクシーを止め、また小夜子の腕を無理矢理引っ張りながら外に出た。それから助手席のドアを乱暴に開け、

なんぼですか?

と今度は落ち着いた声で聞いて、運転手の言った金額を、財布をジャラジャラいわせた後、おつりのいらないようピッタリ払った。タクシーは扉を怒ったように閉め、二人に唾をかけるように走り出し、去って行った。タクシーにおじぎをしていた小夜子が、

当たり前やで。おっさん怒んの。

と照子に言った。照子は小夜子の腕を掴んだまま、

おじぎしても、おっさんに見えてへんやろ!言葉で言えよ!サヨちゃんいっつもそうやんか!面と向かって言えよ!

自分の腕を掴んでいる照子の腕を、ぎゅっとつねりながら小夜子は言った。

・・・すまん。

夏の夜の都会の大通りのはじで、二人はまた、お互いをにらみながら固まった。


79歳と72歳の老人漫才師を乗せ、25歳の漫才師のマネージャーが運転する車も夏の都会の夜を走りたいけれども、渋滞にはまり切ってブスブスしている。79歳の方が言った。

渋滞やな。

72歳がすかさず、

とっくに捕まっとるわ!

79歳が黄昏に聞いた。

ほんで黄昏君、僕とマー坊、どんないい店に連れて行ってくれんのかいなー。おっぱいがあるとこかなー。おっぱいがいっぱいあるとこがええなー。なぁ、マー坊。よし!歌お!♪おっぱいがいっぱーい おっぱいがいっぱーい・・・、ほれ、何してんねん黄昏君、君も歌い。・・おっぱいがー・・。

緊張した顔でハンドルを握っていた黄昏が、突然両目を見開いて言った。

鋭介師匠!マッカッカール師匠!ワタクシ、両師匠をいい店にご案内すると申しましたが、本当のことを申し上げますと行き先をまったく考えておらず、このように渋滞にまではまってしまい、何とおわびを申し上げたら良いか。いえ、このおわびは、今からいたします!ですので・・・。

あー、うるさい。しゃべりすぎや。わしらに相談したかったんやろ?青たん赤たんのことを。それはええねん。なんぼでも、いい店でもどこでも着いてから相談乗るがな。でもな君、黄昏君。君は今、しゃべりすぎたぞ。

とマッカッカールが言うと、黄昏は、

・・・?・・・とおっしゃいますと・・・。

今度は鋭介が、

分からんのか。じゃあ、したくないけど軽く打ち合わせるぞ。
黄昏君、君はもう一回さっきの、師匠!行き先を・・・。

鋭介の言うのを聞き終わるのを待たず黄昏が、

分かりました!

と言って、締めてもいないネクタイを締めるふりをしてから、言った。

鋭介師匠!マッカッカール師匠!ワタクシ先程、両師匠をいい店にご案内すると申し上げましたが、本当のことを申しますと行き先を!・・・まーったく考えておりませーん。

うえー。

と二人同時に言い、助手席に座っていた鋭介はシートを後ろに倒しながら、その真後ろに座っていたマッカッカールはそれをよけて横向けに倒れながら、ずっこけた。

青たん赤たん 1~13 あらすじ

青木小夜子28歳、赤木照子26歳のコンビ・青たん赤たんは人気の漫才師である。しかし彼女達の漫才はテレビや演芸場では観ることができず、その舞台はボクシングやプロレスなどで使われるリング上に限定されている。それは彼女達のツッコミのやり方に問題があるからで、本気の拳で殴ったり、回し蹴りを炸裂させたり、パイプ椅子を頭上から叩き付けたり、スケ番刑事のヨーヨーを顔面にぶち当てたりと、時に流血、大怪我をする過激なものだからである。それに加え、ボケとツッコミが交互に入れ替わるスタイルを取っているため、漫才終了後は二人ともズタボロ、人気があるから休むこともできず、常に全身アザだらけである。
このやり方に限界を感じはじめていた小夜子は、ある日照子に、そろそろ普通の漫才をやろうと持ち掛けるも、照子はそれに難色を示し、その後のまたとある日の舞台でその不満を爆発させ、小夜子の顎を殴って失神させてしまう。
それから二人は、漫才をしばらく休むことにして別れたのだが、生きる伝説としてコアなファン達の間で絶大な人気のある老人漫才師、小夜子の祖父でもある青木鋭介と西川マッカッカールの二人の滅多に観られないスペシャル漫才を観に行った演芸場で、ばったり出くわしてしまう。
客達の大爆笑の中、伝説の老人二人の漫才終了後、照子は無理矢理小夜子をタクシーに乗せ、自分もそれに乗ってタクシーを発進させた。一方、鋭介とマッカッカールの二人は、青たん赤たんのマネージャー黄昏蹴之の誘いで彼の運転する車に乗り、彼の言う、いい店、に向かった。

ミーハートゥーマッチ

僕は自分をミーハートゥーマッチだと、若い頃からずっとそう思っている。ミーハートゥーマッチというのは僕の造語で、何に対してもすごくミーハーで自己愛が異常に強い、ようは物事や人の奥にあるものを見る前から表面的なことにわおっ!と飛び付いてしまい、加えて、そんなくせに自分のことは奥の奥まで愛して掴んで離さない、という最悪最低な人間という意味だ。そんなことみんな自分もそんなとこある、当たり前のことだよ。という人がいると思うが、その通りで、だから人は人を嫌いになったり好きになったりする、とういう一面、一部分があるという気がずっとしている。ミーハートゥーマッチの奴は常に自分を中心にしてまわりの世界を考えているからだ。自己中は世界の中心で愛を叫んでるよ情けねぇ奴だなぁつまらねぇ奴だなぁ寒い、みたいな奴だからだ。
そんな奴のまま死にたくないので僕はギャグを言って、そんな自分とそのまわりの世界をマジな自分の枠からずらしながら、年を取って考えて生きていきたい。ロックは、普段言ったりやったりするギャグと違って、たまにマジになったりするから、僕はギャグをやろうとしてそれをやっているのに分けが分からなくなることがある。僕は自分の存在をギャグにしたいと思っているのだ、と思う。うるせぇなあ、早く死ねよ。

大好きなすかんち

すかんち、というバンドを皆さんご存知か。恋と夢をメリーゴーランドのように掻き混ぜながら演奏するロックバンドだ。ボーカル・ギターのローリー寺西を僕は、中学生の時からずっと大好きでいる。中学二年の時に初めて組んだロックグループ、本当はロックバンドといいたいけれどドラムが打ち込みで他のパートも全部宅録だったのでバンドというとしっくりこない、の名前はずばり、ローリーズだった。メンバーはそれぞれ一番好きなバンドやそのメンバーがいて、それはTMNやバクチクやブルーハーツのマーシーで、僕はバクが好きだった。みんな共通して好きなバンドというのがあって、それはエックスだった。マーシーを好きなギタリストはヒデが大好きで、そいつは後に初代ハチノスギターで暴れ倒してくれた。みんな共通して好きなバンドのもうひとつが、すかんちだった。でもこれはみんなお互い、好きだと口に中々出さなかった。曖昧な感じで誰かが、すかんちゆうのええよ・・、とぼそっとつぶやいたら、それに対して別の誰かが、あぁ知ってるわ、ええよなぁ・・、とまたぼそっと返す。口に出して好きだというのは、イキッた中学生にとっては恥ずかしいバンドだったのだ。でも、そんな空気をさとって、煮え切らんやつらだなぁと思ったのか、録音技術、打ち込みドラムを担当した子が言い切った。バンド名は、ローリーズ!みんな、一瞬の沈黙の後、拍手した。
と、思い出話ばかりになってしまった。さっき、すかんちの再結成ライブの映像を観て、すっかり興奮していた。ダウンタウンのごっつええ感じ、というテレビバラエティーのテーマソングを演奏していたバンドだよ。もう解散はしないそうだ。まったく嬉しいことだぜ。

おっさんのスーサイド 3

コンビニ店長、風邪 吹太・カゼ フイタ43歳の歌うアホな着信歌が鳴り続けている。鳴る方へ這って移動する硝子はようよう、その自分の携帯電話を掴み、仰向けになって電話に出た。

はーい、もしもし。

おー、飲んでるか?すまねぇな遅れちまって。新入りのバイトがよぉ、米の袋カッターで全部破っちまいやがってさぁ、そればら撒きやがって店中米だらけ。ったく、まいったよ。その米ばんばん俺に投げ付けやがってよぉ、暴力的なライスシャワーかっつーの。はは、離婚したばっかりだっつーの。ははは、すまん!そんな感じで遅くなった。

電話はそんな陽気な声の風邪からで、自分の事情も伝えようと硝子は、しゃべった。

そうか。俺はね、今日は店ほったらかして昼から飲んでてね。バイトのミヨちゃんおるやろ、あの子に任してね。最初いっちゃん、あの駅前の、あっこで軽く飲んで、飲んでるうちに暗ーい気分なってきたから、これはいかん思って土手行こ思って、ほんで土手来てな、そしたら土手に華麗に歌い踊る少年がおんねん。吸い寄せられるようにその子の目の前まで行ってしもたん。でな、ずーっとそれ見とってな、そういやぁ風邪のアホと飲みの約束しとったなぁと思って、この子も連れて行こと、

何ごちゃごちゃ言ってんだよ。だいぶ酔ってんなぁ。今おめぇ倒れてんだろ。ったくしょうがねぇなぁ。今どこにいんだよ。

まぁ、そない慌てんと聞いてぇな、ふーちゃん。吹太くん。その子誘ったらな、マミちゃんの許可が下りないと行けません。とこうゆうわけや。誰やねんマミちゃんて、お母さんかな、とか思うがな。でもそんなもん聞いてもしゃーない。どうでもええ。その子の歌と踊りが見たいだけなわけやからな、俺は。で、少年がこれでおしまい!ゆうから、ああ、これでしまいか。よし!飲み行こ、と立ち上がって歩き出したんやけど、ぱったーん、倒れてもて。ははは。

じゃあ今、土手にいんだな。しょうがねぇから迎えに行ってやるよ。おめぇ今日はうちで休め。また、あかりちゃんと響子ちゃん泣かせちまうだけだからな。そこでじっとしてろよ!

いやいや、店の方に帰るからええよ。また今度飲もな。あー、でな、俺倒れたら少年が助けに来てくれてな、まぁ断ったんやけど。少年がゆうねん。僕の友達自殺した。知らんがな。でもその後にな、おっさん命大事にせぇよ、言いやがってな。なんや、嬉しかったわ。またな。

いいからそこにいろよ!一ミリも動くなよ!

風邪はそう言って電話を切った。硝子はまた空を見ていた。近くを歩いていた路上生活のおっさんが、あっ!と大声で叫んだ。ダンボール紙が一枚、空に飛んでから、硝子の顔に落ちた。

おっさんのスーサイド 2

あやしいおっさんにはついて行っちゃ駄目だって、マミちゃんに言われてるんです。だから、もうしわけないけど・・・。

そうか、ほんならおっさん、あきらめるわ。また見に来てもええか?どっこも誘えへん。見るだけや。

・・うーん。駄目です。

そうか。ほんなら、今日だけ、もっと歌と踊りと、見せてくれ。満足して帰るわ。頼む。

・・・うん。帰らなかったら携帯で警察呼びますけど、いいですか?

ええよ。絶対帰るから。

絶対という言葉、僕は一番信用していない言葉なんです。

知らんがな。はは、踊り出しとるやんけ。

夕方の土手。今人気のアイドル、カトゥーンの歌と踊りをまねて披露する小学4年生の少年と、それを見ながら缶ビールを飲んでいるおっさん、硝子蹴之46歳。スポーツ器具店、店長。趣味、ロックバンド、飲酒。妻、あかり41歳。娘、響子14歳。

おっさん、僕ね、カトゥーンに入りたい。赤西君の穴を埋めるとか、そうゆうことじゃないんだよ。ただ、純粋に入りたいの。亀梨君や田中君にはかなわないかもしれないけどね。でもね、ホントゆうとね、亀梨君も抜いて、一番になれると思ってるけどね。

ほんで相武紗季ちゃんあたりとキスしたいんやろ?

おっさん!そうゆうこといってるとみんなに嫌われるよ!

へーん、おっさんとっくにみんなに嫌われてるからええもんねー。

じゃあ、そのまま死ねば。さみしい人生だね、おっさんの人生って。

ははは、よう知ってるやんか。さみしいわ、おっさん。だからもっと歌と踊りと見せて。

少年は、もうこんな見た目も汚いおっさん気にしないで踊りの練習しよ、と歌と踊りを続けた。少年の歌と踊りは、硝子にとても新鮮で、飲んでいた缶ビールが進んだ。よっ!と手拍子を打ってしまう。

はい!おしまい!おしまいだよ、おっさん。じゃあね!

少年はそう早口に言うと、走って行ってしまった。
地べたに座っていた硝子はゆっくり起き上がり、川の向こうに見える赤提灯を頼りによろよろ歩くことに決めて、歩き出した。少年の芸の感動と酒の酔いが混ざって、妙な足取りを踏んだ硝子は、自分の両足が何十本にも見えてそれでも立ち進もうとしたため、自分では複雑に絡む足のせいでよったりベタンと倒れたつもりであったが、実際には、シラフの人の目から見ると、急にバッターン!と横に倒れた。

少年がそれに気付いて走って来て、

おっさん、僕が携帯で救急車呼んであげるから、それまで辛抱するんだよ!分かった?!

硝子はそれを聞いて、なんて情けないんだろう俺は、なんて優しい少年なんだろうこいつは、と思いながら、

やめてー。

と言ったら少年が、

僕の友達、この前自殺したんだよ。おっさんは世の中や僕たちのことをなめてるんだ!ふざけんな!酔っ払っておもしろいこと見て、それで笑って倒れやがって!そんなおっさんはただあやしいだけのおっさんだ!ズボンのチャックが開いたまんまで、ちんぽがはみ出てるじゃないかよ!しかも小っちゃいし!ばか!あほ!なめんじゃねえよ!

と言って硝子の脇腹を蹴って、また走り去った。硝子が倒れた時にポケットから落ちた携帯が鳴った。♪ウィウィッシュアメリックリッスマス ウィウィッシュアメリックリッスマス・・・、とふざけて友人のおっさん、コンビニ店長、に録音させた歌が止まることなく鳴り続けている。


おっさんのスーサイド 1

聞いてください!ジエンドスーサイド!
満杯の新宿のライブハウス。入ってすぐ、ライターの火が点かない。タバコを吸いたいのに。舌打ちしたおっさん、硝子蹴之・ガラス ケルユキ46歳。スポーツ器具店、店長。
ステージでは、すてばちパンクズというバンドの熱演。爆音。客達の叫声、奇声。硝子は嫌な顔をしてすぐ外に出た。再入場できませんよ。と不細工な顔の女店員が、嫌な子供を叱り付けるような声で硝子の背中に叫んだ。外に出てマルボロを吸った硝子は、ふいぃー、あー・・うま。と言って夜空を見た。黒に上塗りされたような雲が、硝子にはいい気分だった。♪スーサイドジエンドスーサイド スーサイドジエンドスーサイド・・・。すてばちパンクズの演奏が微かに聞こえる。俺はこれが嫌で友達と別れたんだ、と硝子は声に出してつぶやいた。
しょんべんをしたくなった硝子は便所を探しながら歩いて、みつけて、おぅ・・、と言ってアーケード付の商店街のアーケードの切れ目にポツンとあった公衆便所に入った。大便所に入ったスキンヘッドの男が、バタンッと音を立てて戸を閉めた。じょんじょろりん、としょんべんを終えたら、うんこもしとこ、という思惑が浮かんで大便所の方に目をやると、ふたつあるふたつとも閉まっていた。どっちもかえ、と思っていったん出ようとしたのだが、やっぱりしよ、と戻ってどちらかの戸が開くのを待った。途端に左の戸が開いて、スキンヘッドで眉毛も無い革ジャンを着た若い男が硝子を睨み付けながら出てきた。素敵・・・、と声に出して言った硝子は恥ずかしくて慌てて、開いたその大便所に入り急いで鍵を閉めた。硝子が素敵だと思って思わず口にしてしまった素敵の対象は、スキンヘッドの彼の大便終了の早さに対してで、決して彼の容姿に対してでは無いのにたぶんそう思われた!と思ったからである。和式であった。目の前に、フェラされたいならここにきまっTEL、という落書きがしてあって電話番号が書いてあった。こんな落書きする奴はよ死んだらええのに、と真剣に思った硝子は大便終了後、鞄からボールペンを取り出し、その落書きのすぐ隣に、僕はビール党です。、と書いて出た。
ライブハウスに戻り、お目当てのバンド、したらどないしたらエースのライブをノリノリで楽しんで中野の自宅に帰った硝子は、玄関を開けてすぐ、娘の響子・キョウコと顔を合わした。中学二年の響子とは朝に一瞬顔を合わすくらいしかない硝子は響子の顔を見て、おー、元気でやっとるか。と言ってから、しまった、と思った。情けない父親感丸出しの発言と響きだったからである。響子はそれに対して、まぁ、かあぁ、か聞き取れない言葉をしかし確実に、硝子に投げて階段を駈け上がり、自分の部屋の戸をバタンッと閉めた。靴を脱ぐのに手間取っている硝子に、聞き覚えのある曲が響子の部屋から聞こえて来た。
レベッカというバンドのバージニティーという曲で、なんや、と声に出した硝子は階段を駆け上がり、響子の部屋の戸をノックした。戸がバンッと開き、硝子はそれに顔面を打った。出てきた響子が硝子に一気に捲くし立てた。何!?うるさいんだよ!音楽聴いちゃだめならヘッドホンするから!来ないで!
戸がまたバタンッと閉まり、硝子はでこを押さえながら、閉まった戸に向かって、
痛いんじゃ、ぼけ。と言ってから、心の中で、でも響子は悪ない、と言った。

全部がぶっ飛ぶ

ステージでバンドの演奏をやっていると、全部がぶっ飛ぶ。普段、嫌だとか辛いとか思っていることが会場の天井や照明の光の先へぶっ飛んで無くなる。それに加え妙な嬉しさや楽しさが自分の中に込み上げて来て全身から漏れ、それで変な動きや顔をしてしまう。それを観ているお客さんが嬉しそうに笑っていたりすると、もう訳の分からんもんが全部、自分からぶっ飛ぶ。だから、それが良くてバンドはやめられない止まらない、ちゅう感じです。て、誰にゆうてるかというと、これを読んでくれているハチノスホームページのお客さんにゆうてます。
そんなもんで僕は、今よりおっさんになっても、老人になってもバンドをやると思います。そんなことは遠い未来のことで、今書くべきことではないかもしれませんが、思うんです。もし誰も僕とバンドをやってくれる人がいなくなっても、街の音楽スタジオの張り紙や、ロック雑誌のメンバー募集や、飲み屋のマスターに聞いたり、完璧に手が尽きたら自分で、バンドやりたし、と書いた看板もってタチンボすれば良いわけです。何や陰気な話になってますが、いっぺん書いときたいなぁと思って書きました。今はハチノスをやれて、ほんまにラッキーだと思います。光成、よっちゃん、茜ちゃん、ありがとう。って、マジで陰気くさいなぁ。すんません、酔ってます。
生き甲斐が無い、ゆうて悩んでる人はバンドでもやってみたらええんちゃうかなと思います。誰でもできるし。余計なお世話ですが、バンドマンはだいたい世話焼きな発言するもんです。ゆるしてね。
デストローイ!
失礼しました。

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