おっさんのスーサイド 8

夜8時。硝子が手術されている最中の病院の屋上には、喫煙者が9人いた。院内に喫煙室はいくつかあるのだが、すべて夜7時に鍵が掛けられるため、喫煙者たちは毎日それ以降の時間は、屋上へ押し上げられる。でもそれは入院患者やその付き添いの人たちにとっては、規制の中の自由を満喫できる場所なので、誰も文句を言わない。当たり前だが、たまに文句を言う人もいる。屋上でタバコを吸うのが好きな人でも、昼はいいけど夜は室内で吸いたいんじゃ!なんて、文句を言うのだ。夜に喫煙室で、尊敬する老人患者とタバコを吸いながら語らいあいたいんだよ、なんていう少年患者もいる。
9人の喫煙者は夜空にプッカプッカ、煙を吐き出しながら、それぞれ好き勝手なことをしゃべったり、思ったりしている。足の折れたパンクス、週間連載を中途で逃げ出して車に轢かれた漫画家、アル中で倒れた父親の世話をする少年、満員電車で発狂して倒れた中年のサラリーマン、石畳に顔面を打ち付けられて顔がぐちゃぐちゃになったおっさん、運ばれた老人の付き添いで来た老人ホームで働く50過ぎのおばはん、高速道路をぶっ飛ばして事故に遭った八百屋で働く若者、それと風邪、シリ。
その中に、階下に続く扉が開いて、多田が来た。白衣を着ていた多田を見つけて、硝子の担当医とも知らず、反射的に風邪は多田の方へ近寄り、多田に話し掛けた。

先生、今僕の友達が下で手術受けてるんですよ。今日の昼から始まってるから、先生も知ってらっしゃいますよね。あいつ今、どうなってるんですか?

僕が硝子さんの手術をしています。もう少し時間がかかりますけど、心配は要りません。大丈夫ですよ。

・・・・!そうですか!先生、今度酒おごります!あ、先生お酒のまれます?なんかおごります!あー!

と言って、風邪はシリに興奮しながら何やら大声でしゃべり続けていた。その様子を後ろにして、多田はまた階下に戻って行った。骨折したパンクスが、そんな風邪を見て、

うるさいんじゃ!

と叫び、その声は夜空に響いて、一瞬で消えた。

おっさんのスーサイド 7

おい、この人酸素マスク外してしゃべったよ。ありえないよ。はは。えー?ホントかよ。ふふ。よーし、やる気出てきた。おい、若者たち。今のメモっとけよ。

硝子の手術担当の医師、多田 通流・タダ トオル37歳はそう言って、勉強のためにそこにいた新人医師たちや、看護婦たちに手術に使う刃物を向け、お前とお前とお前とお前な。と言うかのような仕草をした。ひとりの化粧の濃い看護婦が慌てて硝子の口に酸素マスクを付け直していた。

多田は、硝子と自分を囲む医師、看護婦たちに向け、話を続けた。

この人が今こんななって俺に脳いじられてんのは、この人が酒やタバコやロックバンドや女や仕事をやり過ぎたからだ。そらストレスや緊張、興奮もある。でもね。そんなもんみんなあることでしょ。俺はねぇ、この人の体を復活・・。復活ゆう言葉は良くないな。この人の体をまた、世間でいう普通の状態にするために、今、この人の脳いじってんだ。これはメモらなくていい。俺だってねぇ、こんなだらしない奴、ふざけやがって。と思うよ。でもこれが俺の好きな仕事だからね。はっきり言って楽しいんだよね。自分なりの工夫を加えたくなっちまうんだよ。分かってんだよ、ホントは。どこをどういじれば、この人が起き上がった時にどうなるかなんて。でもさ、それやりたいんだけど、やるとさ、この人の考えを少しかもしれないけれど、狂わせることになるから。それはやらないんだ。この人を元のこの人にするために、俺の仕事をやるんだ。そうしなきゃ、俺もいつか狂っちゃうかもしんないから、怖いしね。

そう言って多田は再び無言になり、硝子の手術を続けた。それから10分程が過ち、

ちょっとタバコ吸ってくる。5分で戻るから、そのままにしといて。

と言って、手術室を出て行った。マジかよ、とみんな不安や恐怖の気持ちを持ちながら、硝子の脳のひらかれた部分を見たり、時計を見たり、お互いの顔を見たり、はやく帰りたいなぁ、と思ったりした。

おっさんのスーサイド 6

ランチュウラサービスエリアの駐車場に車を止めて歩き出し、硝子と美世はそこにある食事スペースの様々なのぼり、看板、いらっしゃぃやーせーなどの声に目移りしまくり、どれにしようか混乱した。ちがう。混乱したのは硝子だけで、美世はちょっと迷ったくらいだった。たくさんあるとはいえ、十数種類しか無い。しかし、硝子の目には数百種類に見えていた。硝子の中で空と地面とその中間にある様々な色が混ざり、回転し出していた。傍目に硝子は妙な歩き方をする人になっていた。手の平を何度も握ったりひらいたりしながら上半身は硬直し、足を曲げてガクガク歩いていた。硝子の方を一切見ずに歩いていた美世は、

何食べます?店長。やっぱここに来たらランチュウラしかないっすよねー。楽しみだなー。

え?何ランチュウラって?

知らないんすか?マジかよ。金魚っすよ、金魚。

はぁー!?アホか!金魚なんか食ったらあかんやろ!あんなかいらしもん!

そう叫んだ後、硝子は突然、ひっくり返るように地面にぶっ倒れた。そして激しく痙攣し出した。それを見て慌てた美世が救急車を呼び、硝子はそこの高速道路の下にある町の病院に運ばれて行った。

美世は上記のような発言はしておらず、硝子が混乱の中で聞いた美世の発言がそれであったのだが、美世の実際に言った言葉は、

何食べます?店長。お好み焼き食べたいなぁ。

という、単純なことであった。


美世が方々に電話を掛け、硝子の手術が開始された病院には、実に様々な人達が訪れた。脳の手術で、それは何時間にも及び、その間に続々と色んな人達がやって来た。バンド関係の知り合いのレゲエミュージシャン、パンクス、ブルースをやる人。スポーツ器具商売の関係のおっさん、おばはん、若者。いきつけの飲み屋のマスター、ママ、そこで知り合った呑み仲間。風邪、シリ、チコ。あかり、響子。皆一様に心配そうな顔をしており、響子はそのたくさんの顔を見ながら、

お父さん、けっこう友達いるんじゃん。

と思った。

美世と道男は、長野県松本のスポーツジムにバーベルを届けた後、それぞれワゴン車を運転してその病院に来た。夕方で、硝子の手術がまだ続いていた時だった。

自分の脳みそを手術担当の医者に見られながら硝子は、その途中、一言だけ言った。

金魚、飼いたいわ。

捨て鉢日記

1月10日 実家にいた。兵庫県豊岡市。朝、テレビ番組・なるとも、を見ながら、もしもこの先理想の女性は?などと聞かれるようなことがあるのなら、昔トゥナイトというコンビ名で漫才をしていたなるみさんです。と答えよう、と思った。
懐かしい思いにやられる場所をたくさん通り過ぎながら、散歩。図書館で同郷の作家、山田風太郎の本を読む。死についての文章を読み、自分なりにも考える。

1月11日 実家にいた。図書館へ行き、視聴覚コーナーで桂枝雀の落語を聞く。元気が出る声。
子供の頃、親戚のおばちゃんに連れて行ってもらった飯屋がまだあるのを発見し、そこで昼飯を食べる。つゆだくのカツ丼。
夕飯は、母と二人で外食。うどんがうまいと評判の店。二人とも、うどんは食わず。

1月12日 昼過ぎ、実家を発つ。京都駅までは、山陰線という名前のまんまの田舎電車に乗る。夜乗ったら、辺りは延々真っ暗である。都会暮らしが長い人は癒されるかもしれない。京都駅から新幹線に乗り、東京へ戻る。実家に帰る際、乗った新幹線ではひどく疲れた。全車両満員の中、隣に座った30歳半ばくらいの男がずっと溜め息をついていたのだ。深刻な顔をして。文句を言うわけにもいかず、途中ギブアップして30分程、デッキに逃げてタバコを吸った。

1月13日 昼は東京都中野区にある図書館で、中原昌也、町田康、いしいしんじ、中島らも、西原理恵子、福田和也、色川武大、柳美里、赤塚不二夫の本を少しずつ読んで至福の時。夜は友人達と酔っ払ってカラオケを歌いまくり至福の時間。深夜3時、帰宅してオナニー。至福の一人きり。

1月14日 死ぬまでに、あと何千回も一緒に酒を飲みたい友人が、僕には何人かいる。それを楽しみにしていれば、毎日やっていける。

1月15日 アルバイト。バンドの練習。練習終了後、ベースの光成と二人で呑む。二人きりで呑むのは気持ち悪いので、近くに住んでる友人を呼ぶことにする。何人かに電話を掛けて、二人来る。深夜におよび、光成と一人の友人が帰る。もう一人の友人と場所をかえて、呑む。そいつは、まだ若いのに老成したようなことも言う、変わった男で、以前そいつと野球のキャッチボールを、僕は初めてそれをまともにやったのだが、とても楽しく心に残り、自分のやるバンドの歌詞にしてしまった。そいつもバンドをやっているので、いつかまた、一回やったことがあるのだが、セッションなんて、やりたい。

1月16日 アルバイト。終了後、暴食。

1月17日 母の誕生日。もしもこの先、好きな漫画家は誰ですか?などと聞かれることがあるのならその時は、森田まさのり先生です。と答えよう、と思った。

1月18日 森田まさのり先生は、今何をしてるんだろう。と、夜空を見上げたら曇りだった。

1月19日 おとといから歩きまくるアルバイトをしているのだが、終わると実にいい疲れだ。いい酒が飲める。仕事をくれた人に感謝している。
古今亭志ん生のドキュメント映像を観る。ドキュッとなるぜ。ざまぁみろぃ、この宵越しの天ぷらぁ!

芸術屋の就職先

パンクスや落語家や漫才師や絵描きやAV女優や小説家や漫画家や映画俳優になりたい奴の就職先は、どこにも無い。そんなものがあるとしたら、世間の宙に浮いたふとんの上ぐらいだ。そろいもそろって怠け者のそこにいる奴らは、普段はそのふとんの上で眠り続けたり、眠れなくてのた打ち回ったりしている。たまに起きたり、姿勢を正したりして、芸をやる。のだが、世間の人達には何も見えていない。当たり前だ。亡霊なのだから。そんな中、たまにそれに気が付く世間の人がいて、その人には宙のふとんの上の奴も世間の人々も両方見えているから、こんなまっとうなことを亡霊に言う。それ、オナニーじゃん。
僕はそんなふとんの上の亡霊の一人だ。現実のふとんの上でも、宙のふとんの上でもオナニーをしている。でも世の中に出る方法が必ずあるはずだ。その時は30歳かもしれないし、40歳かもしれないし、50歳かもしれないし、80歳かもしれないけど、出るときは元亡霊だけに、

化けて出てやろう、と思う。

♪すねたらあかんー

♪わーれる わーれる おもいー ゆーれる ゆーれる メロディー デーイバーイデイイェイイェイイェイ、てのはいい曲だねシカシ。俺ぁ久しぶりに踊ったね、足鳴らしたよ。ミラーボールの代わりに赤ちゃんあやすヤツ、あれ天井に吊って。その下で。
話は変わるんだけど、猫は拗ねると死んだふりするらしいね。昨日知ったんだけどね。もちろん全部が全部そうなんじゃなくて、一部の猫がするんだろうけど。例えば、家族がみんな揃ってお出かけしたと。猫一匹置いてけぼりにしてね。家族が帰って来て玄関開けたら、死んだふりして倒れてんだって。猫が。拗ねてんだよ。こらかわいそうなことしたってんで、家族は普段よりいい餌こしらえて出す。猫の奴、してやったりって舌なめずりだよ。ったく。
でね、これ人間に応用できねぇかなぁと思ってさ。普通に拗ねて可愛いなんてのは小さい子供くらいで、大人がこれやったら、アホうっとうしいんじゃ、ってピザまんなんかぶつけられたりする。そこで、死んだふりしてみるってわけ。まさか相手は、拗ねながらそんなことしてるなんて思いもよらないだろう。
例えば、社会に対して拗ねてるOL 、仮に橋 町子・ハシ マチコ28歳としよう、が新宿の道端に倒れてこれをやったとする。通行人はみんな、チラ見こそするものの、関わりたくない忙しい人達ばかりなので、大半は通り過ぎて往ってしまう。でも世の中捨てたもんじゃない。大丈夫ですか!って立ち止まって声を掛けた男、34歳サラリーマン股 背絵太・マタ セエタがいた。舌なめずりした町子は顔を上げて、背絵太の方に振り返る。見詰め合った二人は一瞬で恋に落ちた。結婚。ある日テレビでM1グランプリを見ていて、夫婦漫才でもやってみるかってことになる。で、その翌年のM1に出場。予選を通過し、決勝進出。テレビ出演を果たしたのを機に、優勝は逃したものの、あっという間にお茶の間のアイドルとなり引っ張りダコ。売れ売れ。それまでやっていた地味な会社勤めはとっくにやめ、漫才、タレント活動。売れ売れ。土地買った豪邸買った超高級車買ったペルシャ猫買ったクスリ買った。一年で世間にあきられて、どん詰まり。どん底。ずんどこ。金かえせ!ごくつぶし!埋める沈めるいわすぞコラァ!なんでこんなことになったんだろう。あぁ、死んだふりなんかしたからだ。
♪なめたらあかんー

正月デストロイ

あけまして、おめでとうございます。皆さん、どんな風にお過ごしですか?僕はビールを飲みながら、テレビを観っ放しです。借りている新中野の木造アパートの部屋にはテレビが無いので、中野駅前にある漫画喫茶、いきつけの店、に来ていて、テレビを観っ放しです。どうしても観たい番組があって、それを観るのが一番の目的で来ているのですが、とても幸せです。その番組は、9時間生だよ!笑いっぱなし伝説というテレビ東京が今現在、放映している番組です。吉本の芸人がたくさん出演していて、続々とおもしろいことをやるので目が離せず、コマーシャル中にダッシュでトイレに行くような有り様です。今は池乃めだかが猫のまねをしていて、それを他の芸人が実況アナウンスしています。とても幸せです。やばいです。末成由美が登場しました。最高です。板尾創路のコーナーがはじまりました。130Rです。楽しい一年の幕開けです。今年はM1にチャレンジしようと思います。相方募集中です。お前は何になりたいねん、というツッコミも受付中です。

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