カッキーン!

カッキーン!
バッターの鋭八郎は、土壇場でホームランを打った。あまりにも気持ち良かった。まわりの、そして頭の中の、すべての音が止まった。泣きたいような笑いたいような、頭で整理できない感覚が全身を巡り満たした。俺は破裂する。と思った。瞬後、鋭八郎は審判をぶっ飛ばしていた。驚いた恐怖に引きつる顔のキャッチャーをその後蹴り飛ばした。とっくに放り投げていたバットは、鋭八郎の所属するチームのマスコットの着ぐるみの頭を吹っ飛ばしていた。鋭八郎はセンターに向けダッシュしていた。ピッチャーをぶっ飛ばし、センターを守っていた奴をぶっ飛ばし、左にまたダッシュしてショートの奴をぶっ飛ばした。敵チーム、味方チームの面々が一斉に鋭八郎の元に集まった。袋叩きに遭った鋭八郎は、左肩を芝生に、誰かに押し打たれた瞬間、絶叫した。
カッキーン!

漫才

はい、こんにちは。ペラッペラです。

どーも。ペラッペラゆうのは僕らのコンビ名なんですよー。

そうなんです。て、お前何もの食いながら漫才始めんねん!

うん。

うんやあらへん。何食うてんねん?出せ!どつくぞ!お客さんに対して失礼やろが!

出せるかボケ!こんなうまいポタポタ焼き。

あー!?おばあちゃんのポタポタ焼きか?それか!?

うん。ちがう。

どっちやねん。うん、か違うかはっきりせぇよ!

ポタポタ焼きや。何でお前の提示した肯定か否定に俺のポタポタ焼きは、指図されなあかんわけ?

何ゆうてんね、お前頭おかしいんか!

おかしくないよ。右も左も分かるしね、まだ。

まだ、て。ちょっと不安なんか。あかん、こいつ頭おかしい。どーにかせな漫才でけへん。・・・おい、俺の片手の指、これな。今何本ある?

5本。

正解や。大丈夫やないけ、アホ。心配したわ。

でも、ほんまは4本に見えるけどな。

なんでやねん!5本あるやろ!確かに5本あるやろがえ!ちゃんと見ろ!

いや・・、言いにくいねんけどな、小指の付け根にな、・・・縫い目が見えるわ。

アホか!わしゃただの漫才師や!

燃えるような恋

燃えるような恋をしたい。と、心の中で言ってみたり、実際に口に出して言ってみたりした。心の中に風が吹いた。倒れるごみバケツや、舞う新聞紙すら無い。気持ちや心が、その言葉に、まるで付いて行かないのだ。僕は30歳手前のフリーター、売れないバンドマンである。出会いは、合コンや出会い系サイトをしないが、同い年の普通のサラリーマンよりは少しある、くらいだろう。ライブハウスには女の子がいっぱいいるからだ。それにライブハウスにいる時の僕はたいてい酔っ払っていて、他人に声を掛けられる状態になっているからだ。出会いは、とりあえず、あるにはあるのである。バンドを始めた22歳くらいから二年前の27歳くらいまでは、恋に対してノリノリのイケイケで、振られまくったが、いい思いもずいぶんさせてもらった。E思いと書きたいほど、吐き気がするほどロマンチックなこともあったのである。ところが今、酒を飲んでも、どんなに可愛い女の子が目の前にいて微笑んでいて、一緒に酒を飲んでくれていても、30前フリーター売れないバンドマンしかもパンク、ノーフューチャーノーフューチャーってほんまになってどないすんねんて、えらいリアルに歌えちゃう男の心に、風が吹いているのである。倒れるペコちゃんすら、出してる舌を噛んで遥か上空へ、一瞬にして消え去るのである。目の前のその女の子を、この後どーこーしたいと思えなくなったのだ。精神的インポ。風が吹いただけでいきり立っていたあのチンポは、はじけて落ちた風船屑となって、ゆるゆる落下しているのだ。極め付けは、小学生の時にむちゃくちゃ恋した女の子の顔、その顔だけでオナニーしたことだ。しかもその後、俺は本当のゆるゆるしぼみ風船になって、住んでいる木造アパート四畳半の畳に、めり込んで行った。どんどんめり込んで行っても、その子の顔は消えず、お父さんの仕事の都合で次々に引っ越しては友達と別れなくてはいけないその子の、この小学校の友達とももうすぐお別れかと思うととてもさみしいです。と書いた作文が思い出され、しんどくなったので、あやちゃんと結婚したい。と口に出して言ったら余計しんどくなって、とりあえず散歩した。

しりとり

えー、エックスジャパン。あかん、終わった。もう一回。えー、マックスの、ミーナ。な。ななしのごんべ。べ。べかこ。子リス。す。隙間産業。う。鵜飼い。い。イノラン。ルナシーのイノラン。あかん、終わった。えー、ココイチ、ココイチに行きたい。い。伊良部。ぶ。不細工。く。クール。ルチャドール。ルナシーのJ。い。えー、生きる。る。えー、ルック。あの、チョコレートのやつ。く。くさい。い。井上晴美。あの、巨乳のやつ。み。ミハエルシューマッハ。は。歯車。ま。魔界。い。い、よう出るな。い。生き死に。やっぱやめた。いきしちに。に。ニルバーナのベース。のクリス。ス。す、もよう出るな。出てないか。す。スリル。る。
る、よう出るな!る。ルー。カレーのな。ルー。う。うんこ。こ。子猿。る。また、るか。ルーム。む。無理。
り。力石。し。志垣太郎。う。海。み。みなしご。ご。五寸釘。ぎ。疑似体験。あかん、終わった。えー、海遊館。海遊館に行きたい。い。いじめ。めだか。海遊館のカニ。ニコルス警部補。ほ。ホック。ブラジャーの。の。ノック。元芸人のやつ。ノック。く。クスリ。り。リング。プロレスの方。ぐ。グンゼ。ぜ。絶壁。木の実なな。な。ナム。ドラゴンボールのやつ。天空ペケ字拳のやつな。む。ムード歌謡。うっせんだよ、きさま。ま。鞠つき。き。キルユー。う。うぐいす。平安京。まゆげ。吉田ヒロ。ツーブロック。高一の夏。バドミントン。ヤンキー。恐喝。便所。半泣き。精子。セミ。カニ。

青たん赤たん 15

かに道楽の巨大なかにの看板の下で、夏の都会の夜の大通りのはじっこ、照子と小夜子はこれからどこに行こうか、それぞれ黙ったまま考えていた。
照子が先に口火を切り、そこから歩いて15分ぐらいで行ける飲み屋街、線香花火の落ちる前の金玉街、に二人は向かった。
金玉街に着くと、色んな看板が縦横奥にびっちり掛けられており、虫の様だった。隣にも、そのまた隣にも同じような通りがあった。

これは迷うな、サヨちゃん。

と照子は言い、小夜子も、うん。迷うな。と言いそうになったが、今度はわたしが決めよう、と思い直し、

あっこ。ラーリーズバー、あっこ行こう。

と二人が眺めていた通りの左側の真ん中あたりにあった店を、指差して言った。
その看板の掛かった扉を照子が開けると、いきなり二階へ続く階段が現れた。二人は階段を登り切り、ラーリーズバーの入り口らしき扉をまた照子が押した。閉まっていた。

閉まってるわ。なんやねん。サヨちゃん、あたしさっきこの下の店の看板もちらっと見てんけど、なんやええ感じの名前やった気ぃするから、下、行こ。

と照子は言い、足早に下に降りて行った。小夜子はそれを見て、決めんの早いねん、と思いながらも照子に少し遅れて、階段を降りて行った。
一階にあるその店の看板には、来たら分かる、とだけ大書してあり、それが店の名前らしかった。
寿司屋のようなその店の引き戸を開けて、二人は中に入った。


黄昏の運転する、鋭介とマッカッカールを乗せた車は、いまだ都会の大通りの渋滞の中にいた。かに道楽の巨大なかにの下で。

おっさんのスーサイド 10

多田の部屋を、多田にもう一度礼を言って出たあかりは、屋上に向かった。途中、エレベーターの脇にあった自販機でリアルゴールドを買い、それを持ってチン、と来たエレベーターに乗り屋上に向かった。屋上に出る扉を開けると、秋の夜の風が吹いて、気持ち良かった。書いてなかったが、おっさんのスーサイドは秋の話である。コンクリートの床の真ん中にあぐらをかいて、あかりは、突き抜けるような深夜1時の夜空に向け、絶唱した。♪あーめー さんさんとー こーのーみーにーおちてー  わずかばかりのー うんのわるさをー うーらーんだりーしてー!
リアルゴールドを一口飲み、♪ひとはー かなしーいー かなしーいーものですねー それーでーもー
かこーたちはー やさしくまつげーにーいこうー じーんせーええええーてっ ふしぎーなものですねー!
扉がバンッとうるさく開いて、あかりが歌をやめて振り向くと、出て来たのはシリだった。シリは、
紅だー!
と現れるなり絶叫し、あかりよりさらに大きな声で歌い出した。
♪くーれないーにそーまあったー こーのおーれをー なーぐさめーるやーつうはー もー いーなーいー!うあー!おまえーは はしりだす!なにかーにおわれるよおー!おれがーみえないのかー すぐそーばにいるのに!
歌い切るとシリは、あかりの隣にドカッとあぐらをかき、義足が両方とも外れた。
シリは、びっくりしてアホみたいな表情になっているあかりの顔をのぞき込み、ニッと笑った。そして、

あかりさん、美空ひばり好きなの?わたしも好きよ。今度カラオケ、行きませんか?

と言った。
あかりは固まっていた表情をようやく少し崩して、緊張の混じった震えた声で、

あなた、風邪さんの妹さん?

と聞いたらシリは、

ちがいます。恋人よ。

と言った。
二人は、ここまでの会話のお互いの間のおかしさに、またひとつ間を置いて、笑い合ってしまった。


風邪は、病院の玄関を出てすぐの灰皿のそばで、タバコを吸っていた。少し離れたところで、響子とチコが嬉しそうに何やらしゃべっていた。チコが突然、風邪の方に振り向き、走って風邪のもとにやって来て、

ふーさん、明日の朝、僕と響子ちゃんもレニーブルスホテルのバイキングに連れて行って。ねぇ、いいでしょ?

風邪は、

おっ、いいねぇ。ちょうど一人で食べるのもあきてたとこでよぉ。チコの皿にいきなりロブスター乗せてやろうかな。でっかい海老の丸焼き!

それを聞いたチコは、きゃははっ、と笑って響子の方に戻って行った。

おっさんのスーサイド 9

硝子が手術されている病院に集まった硝子の仲間たちは、当たり前だが、それぞれ自分の仕事や心や体の都合に合わせて、ぽつりぽつり、バラバラに帰って行った。あかりは、その一人一人に礼を言って見送り、響子は母のそんな様子を見ながら、お母さん今日は一段と大変だなぁ。と思っていた。そして、お母さんてこんな大変なんだ。こんなんなる夫だったら、わたし、結婚したくないなぁ。とも思った。
夜11時前に硝子の手術は終わり、硝子は助かった。その手術室の真下にある待合室には、あかりと響子、風邪とシリとシリの膝まくらで眠るチコが残っていた。チコが残した一口サンドイッチを食べていた響子は、突然涙が出てきてびびった。慌てて席を立ち、廊下を歩いてガラスの自動ドアが開いて外に出て、その間も、今も、悲しいという思いも、嬉しいという思いも何も無いのに、涙が次から次に溢れ出て、意味が分からなかった。硝子なんか早く死ねばいい、と思っていたからだ。じゃあ、これは悔し泣きか。とも思ったが、それは、悲しい、嬉しい以上に空虚で何も無かった。じゃあ自分は硝子のことを好きなのか、と思うと、昔アイスクリームを一緒に食べた思い出や、ドラゴンボールのかめはめ波を打ち合った記憶なんかが思い出され、響子は慌ててそれらを消した。ひとりで。病院の玄関脇にある、ビニールシートを被って閉店を告げるたこ焼き屋の屋台に目が行き、空しかった。そして、ああ、わたし今日が無事終わって安心してるだけや。とこれも、何も思っていないのに声になって突然出たので、びびった。なんで関西弁やねん。と言って無理矢理、自分で締めた。

響子が待合室に戻ると、シリと風邪が小声で言い合い、喧嘩をしていた。チコは、シリの隣で自分の腕をまくらにして眠っていた。あかりは、多田の仕事用個室みたいな、資料や本や脳の模型のある部屋で、硝子のこの後の事の話を多田と話していた。
シリが自分の右の義足を風邪の顔面に投げ付けた。
響子は眠っているチコを抱きかかえて、また外に出た。

豆まき

エゴラッピンの口ばしにチェリーゆう曲知ってる?浜マイクゆうドラマの主題歌だった。浜マイクゆうタイトルちゃうかもしれんけど。それの、ちゃららちゃらららちゃーららっ、ちゃららちゃらららちゃーららっ、ゆう前奏のメロディーに、ひがしこくばるふーふふんっ、ひがしこくばるふーふふんっ、ゆう歌詞付けて歌うとおもろいよ。そのまんま東好きか嫌いか、聞かれたら、別に好きでも嫌いでもないけど絶対どっちか選ばなあかん言われたら、好きだ。ひがしこくばるふーふ、ふんっ!大きい声で歌うとよりおもろいかも。語感のおもしろさ、だろな。きっと。てらうちやまとふーふふんっ!あれ?ちょっとおもろいな。なんでかな。便所あるのにのーぐそっ、金があるのにノーブラッ。ちょっとロックっぽくてやだなぁ。よそ行き感があるなぁ。しめつけられてノーブラッ。これだ!って当たり前だなぁ。まぁええわ、時間たっぷりあるし、色々考えよ。

おもろいフューチャー

子供の頃、人の話を聞け、と大人たちによく言われた。自分は、よほど人の話を聞いていないようなアホ面をした子供だったのだろう。そして実際、聞いていなかった。アホだからである。しかし、足が速い、という特技がなぜか自分には有り、それを得意にして運動会を裸足で走って一等賞を取り、アホなので自分が天才であるかのように、勘違いしてしまった。調子に乗ったアホは、ますます人の話を聞かなくなって、やがて思春期を過ぎてもアホのまま、誰も見ていない運動場を一人、得意げな顔をして走り続けた。そんな妄想子供の猛ダッシュを、やがて高校の同級生達が止めてくれた。お前、気持ち悪いんだよ、と。しかし、アホはそんな親切な人の話をまた聞かず、憎まれ口をたたいてまた妄想に走り出し、売れないバンドをやり続け、29歳になった。アホは今、ようやく人の日記や文章を読みまくり、人の話を聞け、という言葉を思い出し、相変わらず自分に酔っている。おもろいフューチャーが欲しい、なんて歌詞を歌って、自分のフューチャーを誤魔化している。そしてこの文章も、人に見てもらいたいという、徹底的に下劣で下品な、自己満足のためだけのブログだ。でも俺は自分のおもろいフューチャーのために、これからもブログを書き続ける。

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