多田の部屋を、多田にもう一度礼を言って出たあかりは、屋上に向かった。途中、エレベーターの脇にあった自販機でリアルゴールドを買い、それを持ってチン、と来たエレベーターに乗り屋上に向かった。屋上に出る扉を開けると、秋の夜の風が吹いて、気持ち良かった。書いてなかったが、おっさんのスーサイドは秋の話である。コンクリートの床の真ん中にあぐらをかいて、あかりは、突き抜けるような深夜1時の夜空に向け、絶唱した。♪あーめー さんさんとー こーのーみーにーおちてー わずかばかりのー うんのわるさをー うーらーんだりーしてー!
リアルゴールドを一口飲み、♪ひとはー かなしーいー かなしーいーものですねー それーでーもー
かこーたちはー やさしくまつげーにーいこうー じーんせーええええーてっ ふしぎーなものですねー!
扉がバンッとうるさく開いて、あかりが歌をやめて振り向くと、出て来たのはシリだった。シリは、
紅だー!
と現れるなり絶叫し、あかりよりさらに大きな声で歌い出した。
♪くーれないーにそーまあったー こーのおーれをー なーぐさめーるやーつうはー もー いーなーいー!うあー!おまえーは はしりだす!なにかーにおわれるよおー!おれがーみえないのかー すぐそーばにいるのに!
歌い切るとシリは、あかりの隣にドカッとあぐらをかき、義足が両方とも外れた。
シリは、びっくりしてアホみたいな表情になっているあかりの顔をのぞき込み、ニッと笑った。そして、
あかりさん、美空ひばり好きなの?わたしも好きよ。今度カラオケ、行きませんか?
と言った。
あかりは固まっていた表情をようやく少し崩して、緊張の混じった震えた声で、
あなた、風邪さんの妹さん?
と聞いたらシリは、
ちがいます。恋人よ。
と言った。
二人は、ここまでの会話のお互いの間のおかしさに、またひとつ間を置いて、笑い合ってしまった。
風邪は、病院の玄関を出てすぐの灰皿のそばで、タバコを吸っていた。少し離れたところで、響子とチコが嬉しそうに何やらしゃべっていた。チコが突然、風邪の方に振り向き、走って風邪のもとにやって来て、
ふーさん、明日の朝、僕と響子ちゃんもレニーブルスホテルのバイキングに連れて行って。ねぇ、いいでしょ?
風邪は、
おっ、いいねぇ。ちょうど一人で食べるのもあきてたとこでよぉ。チコの皿にいきなりロブスター乗せてやろうかな。でっかい海老の丸焼き!
それを聞いたチコは、きゃははっ、と笑って響子の方に戻って行った。